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インタビュー

【連載企画】IFA業界の現在地と進化の行方── IFA Leading長谷川代表が語る「これからの時代で成功するアドバイザーのかたち」

INDEX目次

現在のIFA業界をどのように見ていますか?

一昔前、IFA業界といえば、証券会社時代の営業の延長で、転勤がなく自由度をもって稼げる職種というイメージが強かったと思うのですが、そのような時代からは一巡し、IFA業者及びIFA個人がちゃんと戦略を考え行動しなければ、簡単には生き残れない時代になってきていると感じています。また、IFA業界がバック率を競って所属IFA数を増やす傾向に未だあると思うのですが、果たして、本当にそれでいいのかという点は疑問に感じています。

IFAを取り巻く競争環境は現在も変化の真只中にあり、それらの変化に順応しながら、しっかりと価値を発揮できるアドバイザーにならなければ、業界で淘汰されていくことになるのではないかと思います。

競争環境が変わったというのは何が大きく影響しているのでしょうか?

一つは、既存の金融機関が社内の働き方や評価制度を変化させているという点があると思います。また、もう一つは、AIを中心としたテクノロジーの進化があります。金融機関の存在価値として、昔は商品を購入したり、情報を提供する場所として、お客様に価値を提供していました。しかし、現在は、ネット証券でいつでもどこでも商品を購入できるようになり、さらに、AIを活用すれば簡単に精度の高い情報を取得できるような環境になりました。そのため、金融機関が単に商品と情報を提供するという役割だけではお客様から選ばれなくなってきています。

さらに今後は、お客様からいただく手数料についても、金融庁などを含めてメスが入ってくる可能性があると思っています。株式や投資信託の手数料がすでに下がっているように、債券についても多くの方が「まだ先のことだ」と楽観視しているように思うのですが、私はここからリテール金融が加速度的に変化していくと考えております。

これらの変化を受けて業界で変わってきている部分もあるのでしょうか?

他社がどうこうというのは正直わからないのですが、変わっていかなければならないと感じています。特に、お客様があっての我々なので、信頼性や透明性を失っては業界全体として発展はないと思います。これまでの証券業界は、情報の非対称性を使って商品の販売をしていた時代であり、現在もまだそのような業者は残っていますが、ここが淘汰されていかない限り、業界は良くならないでしょう。提案内容や手数料の透明性があり、そのうえにアドバイザーとしての信頼ができて、お客様から選ばれていくという、当たり前の倫理観を大事にしたアドバイザーが今後増えていくべきだと私は考えています。さらには、テクノロジー、特にAIとの共生を考えながらツールを使いこなす技術が必要になってくると思います。これまでアナログが主流だった業界なので、この点はまだまだこれから変化していく点かなと思っています。

業界変化の中での貴社の競争戦略があれば教えてください。

もともと先ほど挙げた点についてはずっと問題意識を持っていたので、色々と環境が変化しているからと言って、直近で大きく取り組みを変えたということはないのですが、創業期から社内では、営業のROI(労働生産性)を高めようとよく話しています。会社では、お客様からの預かり資産残高(以下「預かり残高」)を最重要KPIとしていますが、経営方針として、人を増やして預かり残高を増やすのではなく、アドバイザーの生産性を高めることで一人当たりの預かり残高を増やすということに重点を置いています。

生産性とは言い換えれば“時間の使い方”となりますが、アドバイザーにとっての最も重要な時間はお客様との接点時間です。このお客様との接点時間を最大化するために、それ以外の時間、例えば、資料作成や事務手続き、過度な社内会議や営業数字のすり合わせなどは適切に見直し、アドバイザーがお客様に向き合う時間と質を高めるために、社内の分業体制やAI活用やDXを積極的に進めています。

特に分業制によって、業務の一部を運用部門や事務部門に任せることで、アドバイザーが本来担うべきお客様との対話に集中できるようにしています。そうすることで、アドバイザー1人が担当できるお客様の数とお客様にコミットできる時間が増えるので、少ない人数で収益を最大化できる組織が実現できます。例えば、1,000億円を100人でお預かりしているとすると、営業1人につき預かり残高は10億円です。この状況で、証券会社時代と同様の給与水準を得るためには年間2,000-3,000万円のコミッションを上げなければならず、お客様から2%-3%の手数料をいただき続けなければなりませんが、手数料はお客様のリターンを蝕む訳ですから、これは持続可能性が低いと考えます。しかし、1,000億円を10人でお預かりする、つまり一人当たり100億円の預かり残高とした場合には、年間1億円のコミッションだとしても資産収益率は1%で良いわけです。少ない人数で預かり残高を増やす方が圧倒的に持続的な経営を実現できます。また、少ない預かり残高で高いコミッションを上げようとすると、お客様にも負荷がかかってしまい、お客様満足度の向上に繋がりません。IFAにとって、お客様満足度を高めることが最も重要なことだと思っているので、弊社では、そのために生産性を高めることを強く意識しています。

お客様の満足度を高めるために、他に取り組まれていることはありますか?

大きく二つあり、一つ目は手数料の体系としてアドバイザリーフィーモデルを採用していること。もう一つは、お客様に対して透明性のある質の高い提案を行うために、金融工学を駆使したポートフォリオ分析や構築ができるようCIO(Chief Investment Office)を社内に抱えていることです。一般的に多くのアドバイザーは(私もそうですが)金融に関する広い知識があるゼネラリストであり、学問としての金融をしっかりと研究しているプロフェッショナルではありません。そのような中で、お客様の資産を分析し、ポートフォリオを構築し適切にフォローするということを一人の担当だけですべてこなすには無理があると思っています。そのような考えから、この専門的な金融工学の部分をアドバイザーではなく、専門のCIOが担当するという分業体制を敷いています。

アドバイザーは、広い知識を持ってお客様の情報を適切にヒアリングができるコミュニケーション力を持ったゼネラリストであり、CIOはお客様の資産を運用するにあたって根拠のある提案を提示できる金融のプロフェッショナルという位置づけです。

私は、お客様に満足していただくためには、安心感が大事だと思っています。安心感は、信頼できるアドバイザー、そして投資対象とする商品のパフォーマンスとその根拠から生まれると考えています。その安心感を人柄だけでカバーするというのは業界の悪しき慣習だと思うので、弊社では、しっかりと金融工学に基づいた根拠のあるご提案やフォローを行うために、アドバイザー自身が金融工学についての勉強を行いうことはもちろん、日々アドバイザーとCIOを中心とした専門部門が密に連携し、毎月のマクロ環境を纏めたハウスビューやイベント毎にタイムリーに情報発信をするスポットレポートをお客様にお送りしております。

これからの時代、IFAとして成功するためには何が必要でしょうか?

まず前提として、これからのIFAは、トップセールスが成功する時代からトップアドバイザーが成功する時代に変わっていくと思います。営業とアドバイザーは似て非なるものであり、トップセールスとは単純に多くの契約件数を獲得できる人、トップアドバイザーとは契約後もしっかりとお客様をフォローし高い満足度を獲得できる人だと私は考えています。実際に、一昔前のようにリテール出身者であれば誰でもIFAとして稼げるという状況からは少しずつ変化が起こっています。金融機関での実績がある人であっても、「売る」ことに特化していた人は、短期的に一時的な成果を上げることはできたとしても、長くこの仕事を続けるのは難しくなっていきます。IFAとしては、やはり新しいお客様を開拓し続けなければなりませんが、開拓の手法として最も良いのはお客様から紹介を受けることです。特に、コミッション型のIFAの場合には、お客様を開拓し続けなければ生き残れないと思うのですが、目の前の契約や成果を重視しすぎると既存のお客様の満足度を高められず、新しいお客様の紹介が得られなくなってしまいます。すると、徐々にお客様の数が減っていくという負のスパイラルに陥り、成果が上がらず、IFAとして活動し続けるのが厳しくなってしまう。そのため、定期的にお客様をフォローし、生涯担当として長期的な目線で満足度を高めるアドバイスができるトップアドバイザーが今後成功していくのだと考えています。

また、IFA個人の差別化というのも今後は必要になっていくと思っており、一人のアドバイザーとして「私の強みは○○です」ということを、しっかりと確立できたIFAが残っていけるのではないかと思います。「あなたの強みは何ですか?」という質問に対して、「証券会社から独立をしているので販売ノルマがなく、様々な証券会社を比較提案でき、転勤もないため一生涯にわたってアドバイスをすることができます」といったことを強みとして説明しているIFAを見かけることがありますが、それは、あくまでIFAという職種の強みであって、個人のアドバイザーとしての強みではないです。そうではなくて、きちんと「私の強みは何です」ということを伝えられることが必要であり、例えば、「お医者様に対するMS法人を活用した運用アドバイスや承継対策には誰よりもノウハウと経験があります」とか、「金融についてこういう哲学を持ったアドバイスができます」というようなことです。個人の強みの必要性は、すでにアメリカのRIAにおいては広がっている考え方で、ハイパースペシャライゼーションと呼ばれるものがあります。ハイパースペシャライゼーションとは、顧客層の超特化戦略で、例えば、軍人を専門に担当していますとか、野球選手を専門に担当していますとか、ある一定のお客様に特化するということです。特化することのメリットは、仮にアドバイザーとして100世帯が担当できる限界の顧客数だとして、100億円を預かるためには一世帯当たり平均1億円が必要となりますが、特化することで顧客ニーズや抱えているリスクも一定パターン化できるため、ITも活用しながら効率化できる範囲が広がり200世帯まで顧客を持てるようになる。すると、一世帯当たり5,000万円でも100億円をお預かりきるようになります。ターゲットとなる顧客の資産規模を下げることでターゲットの母数が広がるということになります。この手法は、お客様から紹介をいただくためにも、とても有効な施策だと私は考えています。例えば、IFAが既存のお客様に対してお知り合いを紹介してくださいと言っても、誰を紹介すればいいのか何を基準に考えればいいのか、多くの方は分からないですよね。ただそこで、私は何を強みとしているIFAですとか、こういったご職業、バックグラウンドをお持ちのお客様を数多く担当していますということを伝えることができれば、お客様としては、誰を紹介すればいいのかイメージしやすいですよね。つまり、対象を絞れば絞るほど紹介が生まれやすい、さらに、ニッチであるほど競合がいないので、お客様は全国から自分を探してやってきてくれるのです。このように、自分の強みや専門分野を作っていくマーケティングこそが、これからのIFAとしての成功にとって不可欠な要素になると考えています。

一方で、AIやロボアドの進化の中で、これらに淘汰されるという可能性はないのでしょうか?

金融アドバイスにおける一定の情報提供や簡易な提案は、今後ますますAIやロボアドによって代替されていくと見ています。たとえば、商品の比較やシミュレーション、一般的なリスク評価といった部分は、テクノロジーの進化によって自動化が進む領域です。一方で、顧客一人ひとりの背景や価値観、人生観に踏み込んだアドバイス、つまり「その人の人生にとっての最適な選択肢をともに考える」というようなレベルの支援は、人間にしかできません。特に、このような支援は一般的に富裕層と言われる方々からは求められ続けるのではないでしょうか。実際、富裕層と呼ばれるお客様ほど、単なるお金の悩みだけではなく、経営の承継問題、家族との関係、自分の人生観など、複雑なテーマに直面している方が多いと感じています。そうした方々に対しては、表面的な運用提案ではなく、価値観に寄り添った本質的な対話、アナログな関係性が求められるのだと思います。

なので、すべてがテクノロジーで代替されるのではなく、一定の資産形成層やアッパーマス層の領域はアドバイザーではなくAIエージェントに置き換わり、富裕層の方を中心に、アドバイザーによる「その人の人生にとっての最適な選択肢をともに考える」という役割分担がなされていくのではないでしょうか。富裕層向けのアドバイザー業務はAIによって代替されるのではなく、AIによってROIが高まり、顧客数や顧客接点時間を高めることができる機会になると考えております。そのため、AIリテラシーはこの業界においても今後必須となると思います。

IFA Leadingの目指す未来について教えてください。

私たちのビジョンは、「新たなお金の循環から生まれる豊かな社会の実現」です。

日本には2,230兆円を超える個人金融資産がありますが、そのうち約51%が預貯金に滞留しています。これは“お金を使えない将来に対する不安”が背景にあるのだと思っています。つまり、今いくら使って大丈夫なのかが分からず、不安なので、とりあえず手元にお金を残している状態が貯金であり、貯蓄金額は不安量でもあると私は考えています。そのために、我々は適切な資産運用アドバイスによって、目の前のお客様の資産をインフレから保全し増やしていきます。すると、お客様の不安は払拭されていき、お金が貯蓄からさらなる投資や消費、寄付に流れ、お金が市場に循環していくようになります。この循環によって、お金が必要な時に必要な人に届くようになり社会や経済がより良い方向に向かって動いていく。昨今の日本社会は少子化による人口減少や高齢化による福祉問題などで将来に不安を抱えている人も多く、チャレンジができないのは社会環境の影響もあると思います。しかし、将来に期待を持てるようになれば、チャレンジしたいと思う人も増えると思います。意欲のある人、自分の目的を持った人など、みんながチャレンジできる世界を、お金の流れを変えることで実現できると思っているので、我々は、そのような社会の実現に向けて、まずは、資産運用でお金を増やしていくという面で皆さんのお手伝いをしていきたいと思っています。

これからIFAを目指す人に伝えたいことは?

IFAは茨の道であると思う部分は正直あります。特に、一昔前は、証券会社から独立して、自由度をもって稼げる魅力的な職種だという印象が強かったと思いますが、証券会社自体も多くの改革を行い、以前とは見違えるようになった部分もあり、さらに、AIを筆頭にしたデジタル技術の進歩によって、今後ますます投資家との情報の非対称性がなくなっていくと考えると、IFAの意識改革も絶対的に必要になってきます。

このような環境下において、これからIFAの世界に入ってくる人には、IFAで成功するためには、これまでのキャリアの延長戦ではなく、全く別の仕事だと思って取り組んだ方が良いとアドバイスしたいです。

一方で、本来のIFAの姿とは、お客様の将来に寄り添ったやりがいのある仕事であり、また、これからAIの発展によってあらゆる仕事が代替されていくといわれる中で、価値のあるアドバイザーは、AIやロボットには代替することのできない貴重な職種だと考えています。人の役に立ちたい、社会に貢献したい、何にも替えられない自分だけの強みを身につけたいという人は、ぜひ、IFAにチャレンジして欲しいです。

経歴

株式会社IFA Leading 
代表取締役 長谷川 学 氏

2013年に野村證券入社、富裕層向け資産運用コンサルティング業務を担当。
2018年にIFAとして独立。
2021年5月に株式会社IFA Leadingを創業。

https://ifa-leading.com/