
【連載企画】IFA業界の現在地と進化の行方── Fan尾口代表が語る「対面×DXで拓くIFAの可能性」

現在のIFA業界全体の風向きについて、どのような見方をされていますか?
貯蓄から投資の流れは進んでおり、市場全体は着実に拡大しています。しかし、その一方で、ネット証券では株式の売買手数料を無料化するなど、手数料を引き下げる動きが進んでおり、お客様にとっての利便性は向上した反面、我々事業者にとっては収益を上げにくい環境になっています。一方で、IFAの登録者数はここ数年増え続けています。これは、保険代理店で活動している方たちがIFAに参入してきていることが影響しています。それでもなお、外務員資格は持っていても、IFA登録していない保険募集人の方はまだ多数いらっしゃるので、新たに登録をされる方はこれからも増えると考えています。
そのため、これからのIFA業界は、保険からの参入は継続して増えるものの、従来の証券会社から独立して業務委託でIFAになるという動きが減少することで、業界内におけるプレイヤーの属性や構成比に変化が生じていくのではないでしょうか。
業界全体の動向が貴社に与える影響と現状について教えてください。
マス層のお客様は、NISAを活用した投資がメインとなりますが、NISAの枠が拡大したことで、多くのお客様がNISAの枠内に投資金額が収まるという状況になっています。これまでは当初、積立投資のみに関心をお持ちだったお客様でも、その枠外で何か他のものを提案するというのができたのですが、それが難しくなってきています。そこで、お客様のライフプランに沿う形で保険も組み合わせた提案をすることも増えています。
事業を取り巻く環境が変化している中で、経営の方針を変えたという部分もあるのですか?
もともとの経営の方向性として、マス層から富裕層まで、全顧客を対象としてアプローチを行っていたので、その点では、大きく方針を変えたという部分はないです。そのため、これまで通り投資信託相談プラザを軸として、投資に興味を持ち、投資信託やNISAを入口として入ってきたお客様に対していろいろな商品を提案していくということは変わらないです。ただ、やはり入口として投資信託やNISAから入り、それだけで終わってしまうと大きな収益には繋がりにくいので、保険や住宅ローン、さらに加えて不動産などの提案を行って、そこからクロスセルできるということがより重要にはなると思います。既に弊社でも保険の販売などをやってはいますが、売上に対する比率はまだまだ数%ほどしかないので、ここはまだまだ伸びしろのある領域だと思っています。
また、お客様の開拓という観点では、資産形成層をターゲットとする場合、もともとこの層を主要な顧客としてきた保険代理店さんが豊富なノウハウと資本力を武器に、IFAの領域へ本格的に参入してきています。そうした事業者と真っ向から勝負することには一定の難しさがあると感じているので、今後は、証券営業本来の強みである富裕層のお客様への提案を増やしていくということも必要になっていくと考えています。
富裕層のお客様を増やすためにすでに取り組まれていることはありますか?
弊社が開催するセミナーでも富裕層のお客様はいらっしゃいますが、どうしても母数は少ないので、現在は、連携するパートナーを増やして、そこから紹介をいただくというスキームを構築することに積極的に取り組んでいます。富裕層の方の場合、お金を増やしたいというよりも、相続や事業承継、節税など、資産運用よりももっと大事なものがあるというケースが多く、単に運用商品の提案を行うだけだと全く興味を持っていただけないことも多いです。そこで、外部のパートナーさんと一緒になってお客様の課題を解決して差し上げることで、後々の資産運用の提案につながる可能性が高まると考えています。実際に取り組みを進めている佐賀銀行様や税理士法人様とは一定の効果が出ていますし、同じように親和性を感じていただけるパートナーさんから、一緒にやりましょうと言っていただける流れがこれから出てくるのではないかと感じています。
今後の中長期的な展望について教えてください。
私達のビジネスモデルは継続的にお客様を増やしていくことが必要なモデルですが、当然ながら、一人のアドバイザーが対応できる顧客の数には限界があります。100人や200人程度であればフォローは可能ですが、500人、1000人と担当するようになると、どうしても十分な対応をとることが難しくなってしまいます。そのため、現状のようにアドバイザーが一人ひとりに十分に対応する体制を維持するためには、フォローの仕組み自体を見直していく必要があり、それを人手だけで対応し続けるのには限界がありますので、業務負荷を抑えるためにも、DXを活用した仕組みへの進化が不可欠だと考えています。
また、ネット証券の利用者が急増している現在、国内の人口の4人に1人がSBI証券や楽天証券の口座を保有しているという時代になりましたが、一部のお客様、特に資産規模の大きい方々の中からは、「担当をつけてほしい」や「電話が繋がらないのは不安」といった声が出てきているようです。ネット証券の場合は、当たり前ながら対面での対応はないので、基本的にはすべてチャットでやり取りするわけですが、たとえば1億円や5億円を預けているお客様からすると、やはり「対面で対応してくれる窓口が欲しい」と感じるのは自然の流れだと思います。現時点では、そのようなニーズを持つお客様はまだまだ少数派ではありますが、今後は確実に増えていくと見ています。実際、チャットでのやり取りにストレスを感じているお客様は多く存在しています。そのような背景があるので、弊社が対面の窓口を備えた資産運用の相談相手であると広く認知を獲得することが重要であり、困ったときに相談できる相手として選ばれる存在になることを今後の目標としています。
最後に、これからIFAを目指す方にメッセージをお願いします。
最近、改めてリクルートセミナーを全国各地で行っています。毎回15名程度は参加していただいており、まだまだIFAに興味を持たれている方が潜在的に多いことを実感しています。その中で、傾向としては、保険を取り扱っている方や税理士、会計士の方の参加が増えてきているように思います。弊社では、商品のラインナップや集客のための仕組み、教育体制など、IFAとして活動するためのインフラはしっかりと整えているので、割とどんな方でも、志さえあれば、十分に活躍できるようになる環境を準備できていると思っています。
不透明な時代であり、業界的にもまだまだ進化の途中という状況ではありますが、このような環境を楽しめる方、お客様に寄り添ってお客様の幸せを追求したいと考えている方は、是非、弊社にチャレンジしていただきたいと思います。
経歴
株式会社Fan
代表取締役 尾口 紘一 氏
新卒で日興コーディアル証券(現 SMBC日興証券)に入社し、
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)として資産コンサルティング業務に従事。
2008年に地元富山県で株式会社Fanを設立。