
【連載企画】 IFA業界の現在地と進化の行方── オーナーズ伊藤様が語る「“幅広い知識と高い専門性”がIFAの存在価値を高める」

現在の金融業界をどのように見ていますか?
顧客の動向としては、ここ最近の金融マーケットの好調さもあって、投資に対する関心は高まっています。これは、マーケットの影響以外にも、NISAやiDeCoなどの制度面の拡充といった後押しや、SNSなどの普及によって情報取得のハードルが下がって金融やマーケットがより身近なものになってきているということも関係していると感じています。昔と比較すると、顧客が金融情報や商品と接点を持つ機会は増えていると思うので、この流れは引き続き拡大していくのではないかと考えています。
実際に金融商品を触ってみて、資産が増えたことで、特に若い事業オーナーを中心に金融商品での資産運用へのハードルが下がり、以前であれば「財テクは悪だ」という風潮のあった事業法人での資産運用にも変化が起きており、金融商品での余資の有効活用等のニーズも増えていると肌で感じています。
また、アドバイザーの動向としては、これまで強気にエクイティ(株式)を提案してきたアドバイザーが、顧客とともに成果を享受できた局面だったという印象を持っています。これは、一定のパフォーマンスを上げることができたのでお客様に貢献したと言えなくはないと思うのですが、一方で「それはアドバイザーとしての真の実力なのか」と問われると、疑問が残るのではないかと思っており、マーケットが良かったため、結果的に資産が増えたという側面が強かったのではないかと思います。アドバイザーの実力とは、金融に対する専門性や知識を持っているのかだと思いますが、世間には、金利や債券を語れるアドバイザーがどれほどいるでしょうか。また、世の中に出回っている情報も、株式や為替といった話題に偏っている印象があります。今後は、トランプ大統領の再登場などを含め、より不確実性の高い時代が訪れる可能性が十分に考えられます。そうした時代においては、金融への「知識」こそが、お客様の資産を守る最大の武器になると考えており、これからアドバイザーの真の実力が問われる時代が到来するのではと見ています。
今後も顧客やビジネスモデルの変化は加速していくのでしょうか?
これから、ますます金融商品に触れる方は増えていくと思いますし、その過程において、日本の個人の資産運用のポートフォリオがアメリカ化していくのではないかと考えています。これはとても合理的であると思いますし、日本も国を挙げて推し進めていくべきことだと考えています。
また、アドバイザリービジネスという側面からみると、今後も金融マーケットが拡大していくことに伴って、アドバイザリー業務を提供するプレイヤーやプラットフォーマーは増加し、情報の非対称性の解消も進んでいくことで、お客様からいただく手数料の水準は低下していくことが予想されます。そうした影響を受けて、売買で収益を得るモデルではなく、資産を長期的にお預かりし、リカーリング型の報酬をいただく仕組みが一般化していくと考えています。その際には、付加価値を提供できるアドバイザーやバンカーが、よりお客様からの信頼を得る時代になっていくでしょう。アドバイザーの存在意義はお客様の資産面の目的、目標を具体化し、そこへの到達の可能性をより低いリスク量で可能性高く目指すことだと考えています。
顧客の資産は金融資産に限りません。その他資産への知識、情報取得も必要でしょう。不動産、贈与、相続、信託、事業承継など、幅広い領域の知識を持ち、お客様の多様な課題に対応する力が求められていきます。「この人にはなんでも聞ける」と思っていただけるような、そばに寄り添う存在であることが、これからのアドバイザーにとって何より重要になると考えています。
IFA業界として見ると、どうでしょうか?
IFA業界の役割や重要性は今後さらに高まっていくと見ています。IFAの特長である、“独立した立場で中立的なアドバイスを提供できる”という点は、顧客の多様なニーズに応えるうえで大きな強みです。こうした中立性と柔軟性こそが、IFAの本質的な価値であり、今後より一層求められていくと感じています。
ただし、すべてが順風満帆というわけではありません。仮にマーケットが大きく下落するような局面が訪れれば、業界内では淘汰が進む可能性もあります。つまり、実力を持ったアドバイザーには一層の信頼が集まる一方で、そうでない人材や組織は市場から退場せざるを得なくなる。今後は、業者としてのスタンスや、個々人の力量によって明確に差が出てくる時代になっていくのではないかと考えています。
こうした二極化が進むタイミングは、そう遠くない将来に訪れるのではないでしょうか。ただ、そのような状況下においても、継続的に資産をお預かりし、信頼に基づいて報酬をいただく「ストック型モデル」を構築しているIFAや業者は、ブレることなく強さを発揮するだろうと思っています。
商品を通じた結果での信頼関係のみならず、人間として本質的な信頼関係を築いておくことが、マーケットの急落局面でもお客様のメンタル面を支え、そんな中でもきちんと話を聞いて頂けることに繋がると思っています。アドバイザーはマーケットが不安定な時にお客様のメンタルを支えることも重要な役割の一つだと考えます。
今後、IFA業界が発展するために必要なことは何ですか?
IFA業界の発展のためには、アドバイザー一人ひとりが、金融はもちろんのこと、不動産や相続・事業承継といった幅広い資産領域、さらには事業オーナーや富裕層に関する知識を深めていくことが不可欠だと考えています。そして、自身で対応しきれない分野については、それを専門とするパートナーに委ねるという姿勢と、そうした専門家との連携が今後ますます重要になってくるでしょう。
証券会社や銀行の担当者との競争の中でお客様から選ばれるためには、より高いレベルの専門性と、お客様からの圧倒的な信頼を得ることが必要です。より高いレベルの専門性を持つことが、IFAを単なる営業マンから、「真のアドバイザー」としての立場に引き上げる鍵になると考えています。
一方で、IFAには、金融機関のように手厚いサポート体制が用意されていないからこそ、理念を共有できる専門性の高い仲間との提携・協業が欠かせません。そうしたネットワークと支え合いの仕組みを築くことが、IFAとしての価値と信頼をより強固なものにしていくと感じています。
貴社が目指すIFAとしてのポジショニングとは?
我々の目指すポジショニングの特長は、以下の3点です。
①正社員雇用によって真のアドバイザー集団となる
私たちは現在、そしてこれからも「正社員」での雇用にこだわり続けていきます。
一般的に、IFAの営業スタイルは個人プレーのイメージを持たれがちですが、私たちの場合は少し異なります。必要に応じて社内の仲間やチームで一人のお客様を担当することもありますし、それぞれが持つ異なるバックグラウンドや専門性を結集し、お客様の課題解決に向けて力を合わせる――そうした「チームとしての支援」こそが、私たちの強みであり、本質的な価値だと考えています。
例えば、当社にはM&Aを専門とするチームが在籍しており、事業承継など高度なニーズに対しては、会社全体で総合的なご支援を行う体制も整えています。また、同じチーム内でもバックグラウンドの違う人間を敢えて採用していますので、お客様の最適解になる提案をあらゆる角度から検討することが可能です。こうした柔軟で包括的な対応は、業務委託契約者同士の連携ではなかなか実現が難しい部分だと感じています。
また、報酬体系についても、もちろん一定のインセンティブは設けていますが、顧客から得た収益が報酬に過度に直結することには、時として弊害があると考えています。これはもちろん雇用主側の論理で正社員にすることで高いインセンティブを払わないで済むようにしているという意味ではありません。きちんとしたベース年俸を用意した上で腰を据えてお客様に向き合って頂く、目先のインセンティブに囚われない、弊社にてチームとして正しいサービスを世の中に拡げることを進めて頂くことが大切だと考えているからです。だからこそ、私たちは正社員という雇用形態にこだわり、組織として健全な支援体制を維持することを大切にしています。逆に申し上げれば、きちんとしたベース年俸を用意する価値があると判断させていただいた方しか入社して頂きませんし、営業力よりも人間力を重視しています。
②トップレベルの金融知識・情報を持つプロフェッショナルファーム
弊社では、アドバイザー一人ひとりの専門知識や経験をドキュメントとして整理・蓄積し、組織全体で共有・活用できる仕組みを構築しています。前職で培った知見も含め、個人のナレッジを会社の財産として活かし、最終的にはお客様への提供価値につなげています。知識の共有と学習が自然に行える環境づくりを推進しており、中でも知見のドキュメント化は人事評価にも反映される重要な取り組みと位置づけています。
こうした取り組みの背景には、属人的な働き方が根強く残るIFA業界の常識を変えていきたいという強い思いがあります。だからこそ、各人の経験や専門性を持ち寄り、ときにはチームとして新たな価値を生み出す——そんな文化を組織として実践しています。これこそが、私たちが目指すプロフェッショナルファームの在り方であり、チームだからこそ発揮できる価値だと信じています。
③一人あたりの預かり資産を圧倒的に
現在、当社がお客様からいただく手数料について、楽天証券様の金融商品仲介口座では、お客様がご自身でネット取引をされる場合と同水準に設定しています。具体的には、株式や投資信託の売買手数料はゼロ(ネットと全く同じ手数料体系)で、当社が受け取るのは投資信託の信託報酬、債券の売買手数料となっています。株式や投資信託の売買ごとに手数料をいただくモデルでは、不要な売買を促すインセンティブが生まれる可能性があり、私たちはそれを徹底的に排除したいと考えたので、報酬構造そのものを、そうしたリスクが生じない設計にしています。
また、今後さらに売買手数料が下がっていくという予測もあるため、それを見越して先に対応を取っているという側面もあります。売買手数料をいただかないとなると、他社と比較して、どうしても収益率が低くなってしまうので、事業としては難しい決断でしたが、目先の利益にとらわれず、「正しいことを、正しくやりきる」という姿勢を貫く決心でこの形を選びました。その結果として、現在ではお客様からの信頼の証である「預かり資産の拡大」に特化して取り組める体制が整っており、当社の評価体系もこの方針に基づいて、預かり資産を重視する設計としています。
我々は数年後に「一人あたり預かり資産50億円超」、さらにその先には「100億円超」を本気で目指しています。業界平均が1人あたり10億円程度といわれる中で、それを圧倒的に上回る存在になるには、しかるべきターゲット層からの圧倒的な信頼が必要です。そのために、何をするべきかを考え、行動し続けています。
最後に、IFA業界に挑戦しようとする人へメッセージをお願いします。
IFAという働き方は、知識・志・仲間を武器に、顧客と真に向き合える稀有な仕事です。お客様の考える時間軸と会社から求められる収益タイミングの時間軸が違っていると感じることはありませんか?本当に自信が正しいと思うこと、提案を顧客にして感謝されたいと思いませんか?そのサービスをもっと世の中に広めませんか?環境を言い訳にせず、自らの専門性と誠実さで顧客に信頼される存在を目指してほしいです。
変化の激しい時代だからこそ、「知識と信頼」が最大の武器になると考えています。。
経歴
オーナーズ株式会社
ウェルス部門ディレクター 伊藤 紘一 氏
株式会社青山財産ネットワークスより株式会社日本M&Aセンターに出向し、譲渡後オーナー経営者向け財産コンサルティングに従事。
数多くの譲渡後オーナー経営者とお会いし、譲渡後のお悩みごとや、資産管理についての課題解決を支援。
それ以前は野村證券株式会社にて富裕層、主に企業経営者に対する資産コンサルティング提案に従事したのち、UBS銀行にてプライベートバンカーとして上場企業オーナー、未上場大手企業オーナー、開業医に対して資産保全、管理、運用について包括的な提案を提供。
慶應義塾大学法学部政治学科卒。
Certified Wealth Management Advisor (CWMA、スイス政府公認資格)。